こんにちは。
今回は、
プレクーリングなどの体温冷却でマラソン持久力と記録の温度対策
というテーマです。
マラソンのレースでパフォーマンスを発揮して好タイムが出やすい条件の中のひとつとして、気温や体温などの温度が挙げられます。
温度はマラソンを左右する
ざっくり地形などその他の条件をいったん無視して気温や温度だけで考えると、単純に夏の暑いレースではタイムが出にくく、秋冬の寒いレースではタイムが出やすいということになります。
なので、冬のレースで出した自己ベストを基準にして、同じ水準のタイムを夏の北海道マラソンなどで狙いにいくと、失速したり熱中症などで脱水になったりする可能性もあったりします。
一般的に夏と冬ではペース配分や設定タイムをある程度分けて考える必要があるということは、通年でレースに参加されているランナーの方にとっては走りやすさ走りにくさで体感されていると思います。
今回は温度という観点から、マラソンやスポーツを考えたときに、より高いパフォーマンスを発揮するために意識しておきたい、温度と運動パフォーマンスについてと、実際にレースやトレーニングなどで可能な方法などについて触れていきます。
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体温や深部体温における発熱と冷却
運動を行うと熱が生まれます。
心拍には血流による酸素や栄養の運搬の役割もありますが、熱が生まれると体温が上がりすぎないように心拍数が上がって熱を下げる役割もあります。
病気などで熱が高いときや、高気温下でのランニングでも心拍数が高くなります。
いったん話をランニングから離して、ちなみに深部体温とは「体の内部の温度」のことで、体のリズムによって一番温度が低い朝から昼そして夜へむけて徐々に上がっていき、夜から朝にかけて下がるというようになっています。
睡眠の深さやメカニズムなどにも関与していて、入眠時から朝にかけて深部体温が下がっていきます。
小さな子供が寝そうなときに手が暖かくなるのは、入眠時に手足の甲の皮膚血管が開くことで血流がよくなり、相対的に温度が上がります。
このように手足や皮膚からから熱を放出して深部温度を下げています。
睡眠に関していうと、こうして熱を放出することで昼間や起きている間にフル回転している脳の熱を放出して疲れた脳がオーバーヒートしないようになっているということです。
活動限界の深部温度は40度
話をランニングに戻して、長時間運動を行なうと熱が発生して体温が上がります。
体温が上がると下げようとする作用が働いて心拍数が上がったり汗をかいたりしますが、さらに運動を継続するとそれにともなって体温や深部体温が上がります。
人間の活動限度の臨界体温は40度といわれていて、高温・高熱から身を守る作用が長時間運動における制限因子となります。
この臨界温度に近づくにつれて主観的な苦しさを感じていくことになると思います。
冬と夏のレースの違いは気温による深部温度の冷却効果
冒頭で冬のレースはタイムが出やすく、夏のレースはタイムが出にくいという部分に触れていますが、これは体温に影響する部分が大きいと考えることができます。
冬のレースは気温が10度前後の状態で走ることになり、血液の循環以外にも常に走りながら外気で冷却しているので体温が上がりにくくなると考えることができます。
一方で夏のレースでは25度や30度といった気温も珍しくなく、体温が上昇しやすい環境といえます。
ゆえに体温は上昇して、発汗もしながら冬のレースと比較すると早く激しく消耗していきます。
冬でも日常のトレーニングで寒いから着込んで走ったりすると熱が衣類の中でこもって汗をかきやすくなり、それにともなって発汗します。

図は異なる環境温度における持久性運動能力を比較したグラフで、3℃・20℃・40℃それぞれの環境温度で70%VO2maxの自転車運動を疲労困憊になるまで行い、運動持続時間を比較したものです。
高温になるにつれて運動持続時間が短くなるのがわかります。
高パフォーマンスには冷却が重要か
人間の活動や運動には体温が関係していて、体温に関係するので気温もレースに関係していることから、体を冷却することでレースでもパフォーマンスが向上すると可能性について考えることができます。
図 運動前の体温が運動中の体温および 運動継続時間に及ぼす影響

こちらの図は運動前に身体を冷却または加温して体温を変化させた上で暑熱環境での運動継続時間を調べたものです。
運動強度は60%VO2maxで固定していて、体温が低いほど継続時間が長くなります。
食道温度(深部体温)が一番低い折れ線はプレクーリングを行い事前に運動前の体温を冷却して低くしています。
ここまでのことから、
- 環境気温が低く
- 運動開始前の深部体温が低く
- 運動中の深部体温の上昇を遅らせることができれば
- (ただし低体温には要注意)
マラソンなどのスポーツでのパフォーマンスや記録が向上する可能性があることがわかります。
現実的なレース前と最中の冷却方法
レースで実際に体を冷却することを考えて深部体温の上昇が臨界点である40度に到達するのを防ぐあるいは遅らせることができれば、温度という要素においてレースパフォーマンスを向上させる要因のひとつになる期待があることがわかりました。
とはいえ、気温を調整するのは人間には難しそうなので環境以外の部分で体温にアプローチすることになりそうです。
そのために現実的にレースで可能な冷却方法について考えていきたいと思います。
水をかぶる
テレビなどでも見かける王道中の王道です。
エイドでは冷えた飲み物をスタッフの方が提供してくれていて、これを体の部分などにかけて水の温度と水分の気化で熱を冷却します。
もちろん飲むのも忘れないようにしましょう。
効果的な部位については
筋肉
酷使によってダイレクトに熱が生まれる部分で、よく大会などで大腿部などに水をかけている選手もいます。
首
頸動脈など大きな血管が通っていたり、後頭部を冷やすこともできることから首を冷やすことによる冷却効果が期待できます。
頭
エイドなどで帽子に氷を入れてもらって頭をダイレクトに冷やすなどの方法もあります。
頭を冷やす理由としては、一番人体で守る必要がある脳が近いということで脳を冷やすことで脳温を下げることで運動強度が楽になったり認知機能が冷却前に比べて回復するという効果が期待できます。
掌
多数の毛細血管が皮膚に近いところで無数に張り巡らされています。 血管を冷やすことで血流を通して冷却する効果が期待できます。
薄着
寒いレースの場合、ビニールポンチョやカッパを着て走る場合があります。
空気を通しにくいので冬のトレーニング時などは暖かくて走りやすい効果がありますが、レースでは熱がこもってしまいます。
熱がこもると冷却しにくくなり、パフォーマンスが出にくくなる可能性があります。
とはいえ寒い上に雨だと低体温で走れなくなってしまう危険性もともなっているので、これについては天候と体感による判断も必要になります。
飲食物
よく冷えた飲み物は体内を通る際に、食道や胃を冷却して、それによる冷却効果が期待できます。
よく、飲みたくない喉が乾いていないなどの理由で序盤のエイドをパスする例があったりしますが、口に含んだり少しでも飲んでみるなどしても少なからず効果は期待できると思います。
アイススラリー摂取
身体外部からの冷却に対して、より冷却効果を期待できつつ水分も同時に補給できる方法として、アイススラリーの摂取が注目されています。
アイススラリーとは液体に微細な氷の粒が混ざったもので、液体の水よりも効果的に冷却効果を得ることができるというものです。
アイススラリーの摂取の場合、液体と固体の特性冷却効果として得られるだけでなく、内側からの冷却になるのでより効率的に身体を冷却することができます。
-1℃のアイススラリーと4℃の冷水の摂取による身体冷却効果と持久性運動継続時間の比較を行ったところ、アイススラリー摂取被験者群のほうが持久性運動パフォーマンスが向上する結果になりました。
個人では無理な場合も
とはいえ、アイススラリーを用意できる環境はフルマラソンにおいては個人では難しかったりします。
ハンドラーを用意できる24時間走などでは有効な手段であるといえますが、市民ランナーのフルマラソンではエイドで冷えたドリンクや冷水などをいただくだけでも冷却効果はあります。
場所によっては氷をいただけたりする場合もあるところでは活用すると効果的だと思います。
運動パフォーマンス以外の観点でも
過度な体温上昇は疲労困憊による運動継続困難だけではなく、脳温を上昇させることにつながり、脳活動や認知機能などといった中枢神経系にも危険をおよぼすため、運動パフォーマンスとしての観点以外でもこれらのような熱ストレスを低下させる対策が必要です。
健康を考える目線の場合、体温が低いということは敬遠されがちですが、レースでのパフォーマンスを考えると事前にある程度の冷却で熱をさげておいたり、レース中に冷却する工夫などは有効であるといえます。
実際に、個人的体験ではありますが、疲労困憊になる100kmや200kmの後半などで、水をかけたり被ったりアイスを食べたりするとまたもうひと踏ん張り走る力が出てきたりすることもあります。
今回の方法は寒い冬のレースでの冷却ももちろん有効ですが、夏の暑いレースでも非常に有効になると思います。
とはいえいきなりぶっつけ本番で試すと、低体温やトイレリスクなどの要素との絡みもあります。
事前のレースペース走などのトレーニングでしっかり試してみると本番での導入具合がおぼろげに分かるとおもいます。
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