こんにちは。
今回は、
ケガ・故障の治療とリハビリ期間の走力やタイム低下を軽減する方法

さいこっこ
さんというテーマです。
中長距離走のトレーニングやレースを、精力的に継続しているとケガ・故障に見舞われることもあります。
ケガ・故障は完治させないと再発する可能性があったりします。
ところが完治を意識して完全休養が長くなると記録が低下するということもあって、それをジレンマに感じている人は多いのではないでしょうか。
とりあえず先に今回の記事の方向性を述べると
走トレーニングができない代わりに自転車とプールのトレーニングをするのですが、普段の走トレーニングと同じくらいの主観的運動強度になるように意識して実施するというものです。
そうすることで、故障で走トレーニングを休止している期間でも体力の低下を軽減あるいは体力を向上させて、故障をしっかり治して復帰後の走力を早期に高めて自己ベストが出たというものです。
本事例では主に下記のようなランニングメニューの心肺強度を自転車の代替トレーニングで行ないます。
- インターバル走
- ビルドアップ
- タイムトライアル
- セット走
- ジョグ/ロングジョグ
- 回復走
今回の記事は
- 今、故障中で復帰までに走力を伸ばしたい
- 故障しがちである
- 故障しても治療に専念できない
- クロストレーニングに興味がある
- 故障リスクを減らしながら記録を伸ばしたい
- 外を走れない離脱期間に走力を維持したい
こういった人にとってお役に立てるのではないかと考えています。
ランニングにおける故障・リハビリと記録のジレンマ

一般的にケガ・故障の要因として
- 疲労度合いに見合わないトレーニング
- 強度の高いレースの連戦
- 完治しないまま中途半端なレースとトレーニング
- フォームなどによるもの
などが思いつく限りであります。
疲労の度合いに見合わないトレーニングをしたり、勝負レースの連戦などによって過度の負荷を受けてしまうことなども一因だったりします。
いったん故障してしまうと、しっかり治療しないと再発してしまう可能性があり、しっかりと休んで治療するのが重要ですが、休んだ分はある程度の記録や走力の低下を受け入れなくてはいけないというのが通常でした。
また、記録の低下を嫌ってなんとなく走るのをやめられないまま、中途半端に走って休んで痛めてをループしてしまい、治らないのに記録は落ちていくなどといった悪循環もあったりします。
中長距離に限らず、スポーツにおける身体能力や技術のトレーニングには基本的に近道はないわけで、日々の積み重ねが重要だということは経験則的にランナーはみんな分かっているのではないかと思います。
また、積み重ねるのは時間がかかり、失われるのは積み重ねることより簡単です。
こういった背景もあって、故障しても休まずにだましだましトレーニングと故障を繰り返してしまうということがよくあります。
本来であれば、しっかり治して最短で復帰することができれば、記録の低下も最小限にとどめる最良の方法なのですが、なかなか心理的な理由でうまく休むことができなかったりします。
故障を治し記録も落とさないを可能にする事例

今回は、「積極的リハビリテーショントレーニング」という考え方に基づいたトレーニングとリカバリーで、しっかりと故障も治しつつ記録も落とさないどころかレベルアップするという、非常に嬉しい成功事例を紹介したいと思います。
今回、紹介する事例は、足底筋膜炎による故障で約3ヶ月にわたり長期間トレーニングが行えなくなった陸上競技長距離走選手である著者が、「積極的リハビリテーショントレーニング」という従来の考え方と異なるプログラムを実施して3ヶ月後の復帰から早期に5000m 走の自己ベストを大幅に更新した事例のものです。
被検者は、練習中に右脚足底部に足底筋膜炎を発 症した5000m 走を専門とする大学男子陸上競技長距離走選手。
リハビリテーショントレーニングとして、自転車エルゴメータ等を用いた自転車運動と水中運動を走トレーニングの運動強度と心肺の主観的運動強度とが一致するように意識して実施。
どういうことかというと、走トレーニングができない代わりに自転車とプールのトレーニングをするのですが、普段の走トレーニングと同じくらいの主観的運動強度になるように意識して実施するというものです。
主に下記のようなランニングメニューの心肺強度を自転車の代替トレーニングで行なうというものです。
- インターバル走
- ビルドアップ
- タイムトライアル
- セット走
- ジョグ/ロングジョグ
- 回復走
ランのときと同じくらいの心肺の苦しさを自転車とプールでも実施するということですね。
http://sports-performance.jp/paper/1521/1521.pdf
従来のリハビリテーショントレーニングとは

故障時などの走トレーニングを控えた方がいい場合の代替トレーニングとして、プールや自転車などに置き換えるというケースは本事例以外にも行なわれています。
ところが、その運動強度は有酸素運動の息を出ない低~中強度であることが多く、強度の高いトレーニングは代替トレーニングでは行なわれないことが多いようです。
その結果、プールや自転車などの代替トレーニングにおいては、有酸素運動能力以外のランニングパフォーマンスにおいて必要とされる、VO2maxやLTなどのいわゆるスピードを形成する要素の維持または向上がされない可能性が大きく、故障明けに走パフォーマンスが低下していることが多くあります。
このようなことが原因でやむを得ずに走パフォーマンスを低下させる結果になってしまった場合、この走力を故障前の状態に戻すために長い時間を要してしまう場合もあります。
故障を長引かせると悪循環を生む
実際にぼくの体験を自分で振り返ってみても、2018年の春に故障をしてだましだまし悪化させながらトレーニングの質を低下させて中途半端なことをしていたところ、秋にはかなり走力が低下していました。
数値を見て進めていきます。
Jack Daniels’ VDOT Running Calculator で当時の走データからVDOTを算出すると、
時期 | VDOT | フル推定換算 | 測定環境 | 実測値 | |
2018/05 | 56.3 | 2:52:35 | 5kmTT | 18:00 | |
故障期間 | |||||
2018/10 | 51.4 | 3:06:18 | 10kmレース | 40:21 | |
2019/02 | 56.2 | 2:52:52 | 15kmTT | 57:34 | |
2019/03 | 54.0 | 2:58:42 | マラソンレース | 2:58:42 |
上記のように推移しました。
トレーニングでの推定換算はフルマラソンより短い距離で算出されたVDOTなので、フルを実走するともっとタイムは落ちますが、それでもかなりVDOTが低下しました。
そして走力が低下してから、もとの水準に戻ったと実感できるまでには4か月程度を要し、個人的に所要時間の都合で高強度短時間のトレーニングしかしていませんが、この期間は特に強度の高いトレーニングに特化して時間を割いていました。
これらのことから、どんな技能や能力においても共通認識であると思いますが、物事を積み上げ維持するのは困難で失うのは簡単だということが走力においても同じことがいえます。
治療~リハビリ中の身体能力の維持
では、話を研究事例に戻して今回の事例では、
このような問題を解決するためには,リハビリテーション期間中に,体力を低下させず,復帰後も早期 に,故障前のパフォーマンスに戻せるようなプログラムの開発が必要である.
このような故障期間やリハビリテーション期間に体力を低下させずに、回復して復帰した際の運動パフォーマンスの低下を最小限に抑えて、早期に故障前もしくはそれ以上のパフォーマンスに戻せるような運動プログラムの開発が必要であるといった目的で始められています。
大学1年時から下肢の故障のリハビリのくり返しによる記録の上下の問題を抱えていた著者である被験者は、「積極的リハビリテーショントレーニング」と名付けた独自のリハビリテーションプログラムを開発して実行しました。
海外のアスリートなどでは、故障の予防や能力の向上を目的としたクロストレーニングを取り入れている選手は多く、走トレーニングと自転車トレーニングを組み合わせたクロストレーニングで走パフォーマンスが向上したという事例も報告されています。
ほかにもクロストレーニングによる故障リスクの回避や疲労回復効果および競技パフォーマンスの向上というのはいくつも事例があります。
今回、著者である被験者は、故障によって走トレーニングを行なうことができなかった約3か月の期間を利用して、先行研究や経験などから自身の考案したプログラムを実施してその成果を観察したという事例を発表しました。
本事例の詳しい実践データやトレーニング記録などは下記URLに。
http://sports-performance.jp/paper/1521/1521.pdf
積極的トレーニングを行なうことで、それ以前のトレーニングで行なっていた高強度のトレーニングよりも下肢への衝撃や故障箇所への負担も少なくなります。
水中運動と自転車によるトレーニングは、それまで走トレーニングで与えていた負荷と同等のものを下肢への衝撃や故障箇所への負担の抑制と回復を促しつつ、ランニングに必要な能力を鍛えることができたという推測になります。
自転車と水中運動による積極的トレーニング効果

また、自転車エルゴメータなどを用いた本事例のトレーニングについて、
自転車のペダリング運動は、筋内圧の増大に起因する血流の閉塞を起こしやすい特徴があるという研究があります。
そして5分間の最大サイクリング運動と、同一心拍負荷の5分間ランニングの直後の血中乳酸濃度を比較した結果、サイクリング運動の方が優位に血中乳酸濃度が高い値を示したという結果もあります。
これらのことから、同一負荷でもランニングより自転車の方が、またはランニングより低強度の運動で自転車の方がより多く乳酸が出やすい可能性あるということになります。
乳酸=疲労物質ではないというのは、すでに明らかになっていることではありますが、より乳酸が出やすいトレーニング環境であるということは、より乳酸処理能力の向上につながることと、処理した乳酸をエネルギーとして利用できるということにもつながります。
自転車によって走トレーニングと同等の心肺負荷を与えたことのトレーニング効果のほかにも、こういった自転車によるトレーニングの特性的な部分からの恩恵も結果的にタイムの向上につながった要因として考えることができます。
また、水中運動においても、高強度の運動後の回復運動としての水中運動が筋力、柔軟性、全身反応時間、筋硬度および筋痛を回復させたいう報告もあり、水中運動による疲労回復効果などの恩恵でより強度の高いトレーニングを行なうことができたという相乗効果も考えることができます。
3か月のランニング休止のあと
その結果、3ヶ月のランニング休止による積極的トレーニング期間からの復帰後20日目に3000m走、28 日目には5000m走において自己ベスト記録を更新する結果となりました。
故障前のタイムはおろか、故障前の自己ベストまでも更新する結果となりました。
著者自らの実験で出されたこの結果は、ランニングで下半身を故障がちなランナーにとってかなりの朗報なのではないかと思います。
走ることをやめて治すことができない心理とデメリット
ぼくも色んな箇所を故障したことがありますが、その中でも足の甲を腱鞘炎で痛めてしまったことがあって、走れば完全に故障箇所に疼きや痛みを自覚症状として感じているにもかかわらず、走るのにしがみついて休むことができませんでした。
数ヶ月後に控えた、楽しみにしていたみちのく津軽ジャーニーランを完走したかったこと、体重を増やしたくなかったこと、走力を落としたくなかったことなどの、休まない理由を作ってだましだまし走っていました。
結果、故障は長引いて走力は低下して体重も増えるという、全部の悪い側面だけひっかぶるというしょうもないことになりました。
もちろんレースはリタイヤです。
当時のぼくと同じような感じで、なんとなく休むことができずにズルズルと走り続けて全部悪化するということを経験したことがある人にとって、今回のような事例は大きな希望になると思います。
しっかりケガは治して記録も自己ベストが出る。
ケガをしていない元気なときでも、方法論を応用することで、特定の部位に負荷を集中させずに、日替わりで回復する部位と負荷をかける部位をローテーションさせつつ心肺をアップできる可能性もやり方次第ということになります。
この事例は著者の故障によるクロストレーニングを応用したリハビリでしっかり治しつつも、記録は落とさずむしろ向上させるというところがとても魅力的な事例であります。
もっといいのが、こういったクロストレーニングを故障していない段階で取り入れることで、より記録の向上を狙える可能性があるということと、ケガ・故障が起こる前に無理な負荷を与える箇所を変更しつつも、強度の高いトレーニングを続けて向上を狙うことができるという応用に使うことができる点ではないかと考えています。
また、事情で走れない・走る時間を確保出来ない人や天候などの理由で継続的に屋外を走ることのできない人にも自転車やエアロバイクなどで応用することができます。
最後に
学生や社会人などの伸びしろMAX付近まで出し切っているであろうトップレベルのランナーとは異なり、大人になってからマラソンを始める人の割合が多い市民ランナーにおいては、ある程度の負荷のトレーニングを辞めずに故障せずに継続していくと基本的に記録は伸びると思います。
もちろん、記録だけがすべてではないとは思いますが、速く走ることだけではなく、長い距離に挑戦することにおいても、故障やリハビリなどによるブランクはないに越したことはありません。
そういった意味でも、今回のようにリハビリ中に走力を落とさない方法論の事例や故障リスクを低減させることができる可能性のある方法論は価値の高いものであると思います。
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